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2015/06/10(水)

つくるビルゼミコラム vol.9 「ニューアーティストヒストリー~新世代の美術史」

つくるビルゼミ5月 「ニューアーティストヒストリー~新世代の美術史」
平田剛志

  若葉が目にしみる季節となりました。新しい季節に合わせてか、美術雑誌各誌も「日本のアート、最前線!!」(『美術手帖』2015年5月号)、「新人大図鑑2015 アート界のスター発掘!」(『美術の窓』2015年5月号)など、若手や新人作家の特集が組まれています。
 日本独自の雇用慣行である新卒一括採用のように、美術界も「新人」に対する興味関心が強いようです。誌上にあがる「注目の新鋭作家」「注目の新人アーティスト」「注目の新人」「新世代作家」「若手作家」「気鋭のアーティスト」といった言葉をみると、美術は「新しさ」を評価しているようです。
 展覧会においても、「VOCA 新しい平面の作家たち」、「写真新世紀」、「新世代への視点」、「新鋭選抜展(京都府美術工芸新鋭展)」、「日本の新進作家」などなど、「新しさ」を冠した展覧会が数多くあります。

  しかし、「新人」「若手」と呼ばれたアーティストもいつかは「新人」ではなくなります。では、過去、美術史(誌)上ではどのようなアーティストが「新人」として注目され、何が「新しい」とされたのでしょうか。美術界の「新人」の変遷を追うことで現代美術、美術界の流行が見えてくるかもしれません。そこで美術界を代表する歴史ある雑誌『美術手帖』(1948年創刊)、『芸術新潮』(1950年創刊)の2誌で昭和時代に行われた「新人特集」を検証してみました【表1】。

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 まず昭和の「新人特集」の頻度ですが、『芸術新潮』で8回、『美術手帖』は3回でした。『美術手帖』での新人特集が少なく見えますが、「新人特集」が定期的に組まれるようになるのは90年代以降のことだとわかります。「新人特集」の頻度が『美術手帖』よりも『芸術新潮』の方が多い理由ですが、当時の『美術手帖』が批評誌、『芸術新潮』が美術ジャーナリズムを編集方針としていたためかもしれません。

 続いて、取り上げられている作家を見てみましょう。1950年代後半に「新人」として注目されていたアーティストには、今井俊満(1928-2002)、池田龍雄(1928-)、小山田二郎(1914-1991)、前田常作(1926-2007)、河原温(1933-2014)、吉仲太造(1928-1985)、山口勝弘(1928-)、加山又造(1927-2004)、嶋本昭三(1928-2013)、毛利武士郎(1923-2004)などが挙げられます。雑誌刊行時、いずれも1920年代後半生まれで年齢は30歳代でした。現在では美術館で展覧会が開催されたり、作品が収蔵されるなど高く評価されている作家たちです。

 1960年代ではなぜか「新人特集」は見られず、1970年代前半に『芸術新潮』で頻繁に特集されます。1970年4月の「やきものの若い世代」では、宮永理吉(1935-)、八木一夫(1918-1979)、鈴木治(1926-2001)、辻晋堂(1910-1981)、荒木高子(1921-2004)などが紹介されています。八木一夫や辻晋堂は雑誌刊行時50代だったので「若い世代」とは言いにくいのですが、「やきものの若い世代」の登場によって、これまでの仕事が再評価されたということかもしれません。続いて、『芸術新潮』では1971年1月に「華々しい京都芸大の新人たち」で、加守田章二(1933-1983)、井田照一(1941-2006)、小嶋悠司(1944-)、林秀行(1937-)を紹介し、同年3月に「デパートが売り出す日本の新人」、5月に「美術記者が選んだ日本の新人」として小規模な新人特集が定期的に行われています。

 1980年代以降は『芸術新潮』は編集方針が変わったのか、新人特集が見られなくなる一方、『美術手帖』で新人特集が定期的に組まれるようになります。1983年の「現代美術の新世代とニュー・スタイル」では、岡崎乾二郎(1955-)、大竹伸朗(1955-)、椿昇(1953-)、戸谷成雄(1947-)、川俣正(1953-)などが紹介されています。どことなくこれまでの特集で見られた作家群と比較すると今に通じる「現代美術」の作家が登場してきたという感があります。ちなみに、横尾忠則(1936-)が選出されているのは、1980年代初頭に「画家宣言」をして、グラフィック・デザイナーから絵画制作に移行したことが理由かと思われます。

 1990年代では『美術手帖』1990年9月に「気になる日本のアーティスト」が特集されています。厳密にはこの特集は「新人」に限定してはいないため、草間彌生(1929-)、中西夏之(1935-)、菅木志雄(1944-)などベテラン勢が多く挙げられています。その中にまじって「新人」と言えるのは、岡崎乾二郎、中村一美(1956-)、吉澤美香(1959-)、伊藤誠(1955-)などでしょうか。いずれも東京を中心に活動する作家です。

 さて、駆け足で「新人特集」を見てきましたが、簡単に要点を挙げると、京都芸大の新人特集がありはしましたが、20~30代、東京、男性中心・偏重であることがわかりました。昭和時代の美術雑誌を飾ってきた「新人」は、ひとまず20~30代の東京在住の男性作家だとは言えるでしょう。関西圏では泉茂(1922-1995)、具体美術協会の創立メンバーの一人であった嶋本昭三、井田照一、森本紀久子(1940-)、北辻良央(1948-)、北山善夫(1948-)などが含まれていましたが、関西ニューウェーブとされる森村泰昌、中原浩大などの名前は見つかりません。まだ関東には波及していなかったのでしょうか。00年代以降になりますと、この様相は変動するのですが、またの機会に譲りたいと思います。

 最後に、つくるビルゼミで選出した新人または注目のアーティストを以下に挙げます。もうご存じの方も、初めて知る方も、ぜひご注目ください。ここで挙げられたメンバーで展覧会が開催する日がくるかもしれません?

つくるビルゼミが選ぶ2015年気になるアーティスト

荒井理行
石橋志郎
井上裕加里
梅田哲也
大槻英世
加納俊輔
クワクボリョウタ
アンリ・サラ(Anri Sala)
杉浦由梨
杉田陽平
瀧弘子
田中加織
ツツミ・アスカ
寺脇扶美
長谷川弘嗣
林葵衣
biki
ミヤギフトシ
村山春菜
百瀬文
山下拓也
山邊桜子
山本雄教
横山奈美