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2015/04/11(土)

つくるビルゼミコラム vol.7 「思い出の卒制アルバム」

つくるビルゼミコラム4月「思い出の卒制アルバム」
平田剛志


 いよいよ春の気配が感じられる季節となりました。春と言えば、卒業シーズンです。美術界においても1月から各美術大学の卒業・修了制作展、いわゆる卒展が開催されています。論文に最新の研究動向や時代の流行が反映しているように、卒業・修了制作作品においても、これまでの美術史や学生を取り巻く時代の流行が反映・影響しています。つまり、「卒制」には「時代」が刻まれているのです。そんな卒制は、どんな有名作家の作品よりも2015年という「時代」をもっとも反映した「現代美術」と呼べるのではないでしょうか。

 では、過去の「卒制」を振り返ったとき、どんな時代や美術が見えるでしょうか。それを知るには卒業・修了制作展の出品作品を掲載した卒業・修了制作作品集が最適です。論文提出が一般的な総合大学と異なり、美術大学の実技系学科では卒業・修了制作が主になります。これらの作品は、大学内および美術館等の展示室で一般に公開され、作品集として掲載・毎年刊行されるのが通例となっているからです。つまり、公的な記録として過去の卒業・修了制作作品を遡ることができるのです。

 そこで、今月のつくるビルでは、参加者の皆さんにご自身の「卒制作品集(アルバム)」をご持参頂き、当時の卒業・修了制作作品を通じて卒業時代を振り返りました。当時と現在の作品や卒展、校風の変化、同級生の作品から時代の流行まで、今年の卒展の感想も交えつつ、それぞれの「卒業」をお聞きしました。しかし、今回の内容は各参加者の具体的な出身校や作品について記す必要が生じるため、卒業後10年以上が経過した筆者の出身校のケースを具体例に見てみたいと思います。

 筆者は2004年に多摩美術大学美術学部芸術学科を卒業しました。多摩美では全学生の作品を掲載する卒業制作作品集は制作せず、「特に優秀と認められた作品」のみを掲載した『卒業制作優秀作品集』を刊行しています。筆者の卒論要旨もありがたいことに(恥ずかしいことに)掲載されております。論文名は「地図と美術:ここではないどこかへ」でした。内容については別の機会に譲ります。

 続いて、この作品集に現在活躍するアーティストは何人いるのでしょうか。恐れ多くも調査をした結果を表にまとめました。調査にあたって、今回は美術系の学科に範囲を限定し、2015年3月現在に個人のウェブサイト及びブログなどから経歴を確認できたアーティストをリストアップしました。優秀作品集に未掲載または掲載されて活躍もしているが個人名義のウェブサイト・ブログを確認できなかった方はリストから洩れておりますことをご了承ください。

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 さて、表をみてみると、福永大介さん、毛利悠子さんなどコマーシャルギャラリーに所属し、国内外で活躍する方、関西圏でも発表している石川丘子さんなども同年度の卒業生でした。みなさん学部を卒業後は、大学院へ進学、留学または就職、転居をするなど、それぞれの場所で活動を継続しています。同じ時期に大学にいながら面識もなく今日に至った方がほとんどですが、同世代として今後のご活躍を期待しています。

 この結果から2004年という時代や2004年度卒業生の傾向があるかは、さらに時代が経過しないとわからないかもしれません。また、リスト化はしましたが、なかにはウェブサイトの更新が止まっている方もおりました。卒業後にアーティストとして活躍し続けることがいかに困難なことか考えさせられます。しかし、筆者は大学自慢がしたいわけでもアーティスト落第者を批判したいわけでもありません。むしろそのような変化こそが時代であり、人生だと思うからです。

 第26代東京大学総長を務めた文芸評論家、映画評論家の蓮實重彦はかつて卒業式の祝辞で以下のように述べています。

「高等教育機関が授与する三つの学位の一つである学士という称号の品質保証期間は、せいぜい三年、長くて五年だとわたくしは思っています。どこの国の、どんな大学の学士号も、ほぼそんなものであるはずです。それは、間違っても、生涯を保証するものではありません。だから、就職される方も、大学院に進まれる方も、その三年から五年という品質保証期間の間に、新たな環境の中で貴重な他人との交渉を深め、それを通して自分自身の未知の部分と確かな出会いを演じ、みずからの責任で自分自身をさらに変化させる機会を招き寄せねばなりません。重要なのは自分独りであれこれ考えることではなく、他人との交渉の中で自分を発見することにあるはずであり、〈知性〉とは、他者との遭遇でみずからを変化せしめる社会的な柔軟さにほかなりません。わたくしは、あなたがたに、そうした柔軟さを発揮する機会が幾度となく訪れることを祈っています。」
蓮實重彦『私が大学について知っている二、三の事柄』東京大学出版会、2001年、pp.62-63

 そう、大学や学校が有するもっとも重要な機能とは、まさに「他人との交渉の中で自分を発見すること」の能力や機会を作り出すことではないでしょうか。そして、卒制とはその発見や変化の記録なのではないでしょうか。加えて、ここで述べられている「他者」とは、人とは限らないでしょう。美術作品であれ、風景や言葉などもまた「他者」だからです。今回の表から漏れた多くの卒業生たちは品質保証期間の間に新たな環境へと進路を変えただけなのかもしれません。大学時代は4年間で終わり、卒業後の時間の方が長いのは言うまでもありません。卒業後はより変化の激しい時代や他者、環境に揉まれていくのです。変化や柔軟さのルーツに「卒制」があると考えると、そこには若かりし「時代」が詰まっているようにも思えてくるのでした。

 最後に、「つくるビルゼミ」が「自分独りであれこれ考えることではなく、他人との交渉の中で自分を発見する」変化と柔軟さの機会となるよう今後も努力していきたいと思います。